SECTION 1
“誰にもうつさない、誰からもうつされない”現場を作る
SECTION 2
リモート運用で生じるストレスをいかに減らすか
SECTION 3
目指したのは「身の丈に合う」リモートプロダクション
SECTION 4
これからのプロダクションに必要なのはアイデアと“妄想”
SECTION 4
吉井
今回のようなリモートプロダクションを考えるとき、クラウドとセキュリティというキーワードは外せませんよね。この2つとどう向き合っていくべきだと考えていますか?
小林
クラウドに関して言えば、今は実務運用には難しい点があるように感じます。例えば私が担当しているところは、重いものでは10キロくらいもあるハードディスクを台車に乗せて運用しているのが実態です。以前は、将来は小型化やデータの圧縮技術によって、そのうち運用が楽になるのかなと思っていたんですが、4Kになってさらに大きなデータになりソリューションが難しくなった。まだまだ課題が多いというのが正直なところです。
栗岩
一方で、クラウドにデータを預けるのはセキュリティリスクという話がありますが、ハードディスクを手で持って行くリスクはあまり語られていません。媒体を壊すこともあるでしょうし、なくしたり盗まれたりするリスクもあります。でも、放送に関するデータがクラウドで流出した話はあまり聞いたことがありません。ですから、将来的には総合的なリスクを考えて運用していくべきだと思います。
中澤
私はクラウドとオンプレミスのハイブリッドでいいと思っているんですが、技術の進化は過去と比べてさらに速くなっています。だから「(セキュリティの懸念も含めて)今できないから」と諦めるんじゃなくて、「きっとこうなるよね」と考えることで見えてくる世界がある。同時に、現場のアイデアや創造力から生まれるもので、技術的に実践できるものはすぐに取り組んでいく姿勢が大事になってくるでしょうね。
吉井
今回、NHKテクノロジーズはコロナという誰も予想していない状況のなかで、リモートプロダクションを実現させました。今後、放送やプロダクションには何が必要になってくるのでしょうか?
中澤
今回、活用したものも含めて、汎用的な技術はよほど高度なものじゃないかぎり、今はインターネット上にごろごろ転がっている時代。だからこそ、必要になるのは現場でのノウハウなんですね。それを我々は“業務知識”と呼んでいますけど、技術やIP機器にかかるコストは落ちているので、現場のノウハウや経験から生まれるアイデアとか、“妄想”をどうやれば実現できるか。何か使えるものがないかって探す能力が大事になってくる。
栗岩
私は5年ほど前にフルクラウドで、コンテンツ管理や、プロキシを使って編集する仕組みを作っていたんです。でも、実際にはかなりハードルが高かった。ところが、今はネット上、クラウド上に技術要素や情報ソースがいくらでもあります。ですから、あとはそれらをどうインテグレーションするかだったり、どうやってAIを活用するかといったところですね。私自身もいろいろ妄想していて、やってみたいことがでてきています。
村上
今回のIP中継車のシステムでいえば、自分たちの中継車だったから、このスピード感でできたと思うんです。これが局全体の中継車を標準化しようとなると、どうしても時間がかかってしまいます。でもうちは標準化する必要性がないので、突っ走れる。その部分をもっと尖らせて、強くしていきたいですね。
中澤
我々は2019年にNHKアイテックとNHKメディアテクノロジーが統合して、NHKテクノロジーズとなったわけですが、今後、もっと設備側と現場側が、お互いの文化やノウハウをぶつけ合うことで、新しいものが生まれてくると思う。そして現場で苦労した分、そのニーズやノウハウどうやってサービスに活かしていくかが、これから重要になってくる。あとは、結局“人”ですよね。待ってるだけではダメで、実現できる人、調べられる人、拾ってくる力がある人じゃなきゃいけない。今、当部には、そうした姿勢の人間が集まっていますし、「もっといいものを作ろう」っていう雰囲気を社内に作っているところですね。
元橋
今回のコロナ禍は望んでいたわけではないし、今もコロナで苦しんでいる方がたくさんいます。でも、番組制作のシステムや、4K/8K化という高画質の流れ、インターネットサービスの同時配信やVOD、あるいは局内設備のIT化といった、今までバラバラにきていたものが1つになれる契機なのかもしれない。あるいは、放送局の仕組み自体を、アナログからデジタルに変えていくきっかけになるかもしれない。今日、みんなで話していてそんなふうに思いました。