Our Service

withコロナ時代の番組制作

  • SECTION 1

    “誰にもうつさない、誰からもうつされない”現場を作る

  • SECTION 2

    リモート運用で生じるストレスをいかに減らすか

  • SECTION 3

    目指したのは「身の丈に合う」リモートプロダクション

  • SECTION 4

    これからのプロダクションに必要なのはアイデアと“妄想”

リモート運用のストレスをいかに減らすか

現場へのカメラ設置でストレスを軽減

吉井

今回のスポーツ中継では、「3密を避ける」ために現場のリモート運用が求められましたよね。実施にあたって、どのような課題や工夫があったのでしょうか?

村上

どこの放送局も苦労されている点だと思いますが、現場を分散してリモートで運用する際のいちばんの課題はコミュニケーションなんです。打ち合わせはSkypeやTeamsなどを使えば可能です。でも、本番中の連絡はインカムになります。呼んでも反応がないと、「どうなってるの?」とストレスを感じてしまう。そこで、各現場にコミュニケーションのためのカメラを配置して、現場内からブラウザ経由で見られるようにしました。

打ち合わせの様子

井田

お互いの顔を見えるようにしたのは、すごく有効でした。というのは、私たちはふだん相手が見えない状態でインカム連絡するじゃないですか。連絡がつかないと、相手の状況が見えないので少しストレスがある。でも、見えていれば、「そうか、今はどこそこにいないからつながらないのか」とシンプルに分かります。

村上

リモート運用で言えば、ネット回線を引けば、音も映像も送れますし、当然、制御も可能になる。今回のスポーツ中継では、現場の中継車から放送局の副調整室を経由して放送波に乗せるので、今回新たに副調整室と中継車の間にVPN回線を1本引きました。そうすることで、副調整室側も各現場に配置したコミュニケーションカメラの映像を見られるようになった。今回のリモート運用で、副調整室の人は初めて中継現場から送られている、放送本線以外の現場の映像が見えるようになりましたし、私たちも副調整室の状況が分かるようになりました。この映像伝送には YouTuber のゲーム実況などに良く使用されている、低遅延、高画質の圧縮伝送手法を参考にしました。

副調整室コミュニケーションライン

井田

感染症対策のためのリモート運用って、どうしても「これをカットしよう」「ここも抑制しよう」となりがちなんです。でも、今回の中継を通して、いちばん重要だと感じたのは制作スタッフのストレスを取り除くこと。中継車で“密”を作らないようにスタッフを離した結果、コミュニケーションが取れないというストレスが予測された。それを解消するうえで、村上と大橋が作ってくれた仕組みが合致したので、積極的に使っていったということです。

コミュニケーションカメラ

低コストで構築したリモート運用

吉井

こうした仕組みをすぐに実現できたのは、2019年にNHKメディアテクノロジーとNHKアイテックが統合してNHKテクノロジーズが誕生し、放送に関する技術だけでなく、ネットワークの知見も持ったことも要因なんでしょうか?

大橋

そうですね。先ほど村上が話したように、VPNサーバーを立てて副調整室と中継車を接続することで、映像信号や制御信号など、いろんな情報をやり取りできるようになった。技術的には昔からありますが、扱いやすいように放送現場に取り入れるのは難しかったですね。ただ、実は去年から「テクラボ」と題する社内の開発活動プロジェクトで、『制作と技術からこういうリモート運用の方法ができたらいいね』と提案をもらって、それを実現させていく取り組みをしていたんです。この開発プロジェクトのテーマがそのままコロナ禍の対応に活用できたと思います。

井田

これまでも当然、中継現場と副調整室とで制作スタッフは分かれていました。しかしこれまでは現場の制作スタッフは局で副調整室スタッフと一緒に打合せをし、CGやVTRを確認した後に現場へと移動してくるワークフローでした。それがこのコロナ禍によって、競技場にいる人はずっと現場、副調整室にいる人はずっと副調整室と、スタッフは完全に分断されることになってしまった。ただ、そうなると制作のチーフプロデューサーがずっと現場にいるために、局で作り込んだCGやVTRを事前に確認できなくなってしまう。その問題をどうにかできないかという相談もありました。

そこで、コミュニケーションカメラによる状況把握に加え、制作スタッフの打ち合わせで使っていたSkypeを中継車内のシステムとドッキングしました。それによって、どのインカムからでもSkypeで話せるようになった。例えばワイヤレスインカムを使えばどこからでもつながるようになり、映像をルーティングすれば、会場内のどこのモニターにでもSkypeの画面が出せるようになった。また、副調整室とのVPN IP伝送を使うことで、放送に出す前の CG 素材や VTR 素材を個別に確認できる仕組みを作ることができました。

大橋

しかも、IP(インターネット)機器ですから、コストは放送機器に比べるとかなり安価です。回路の設計やプログラムはすべて自分たちで作ったので、実質の製造コストはほとんど我々の人件費のみでまかなうことができたのも、素早くリモートを実現できた要因だと思います。