Our Service

with コロナ時代の番組制作

~長期間に渡るスポーツ中継の現場から~
“スモール”リモートプロダクションの実現

新型コロナウイルスの影響で人々のライフスタイルが急激に変化した2020年。放送の現場も例外ではありませんでした。そうした中、NHKテクノロジーズが挑んだのが約2週間にも及ぶスポーツ中継です。
感染症対策を講じながら安定した生放送を実現する、この難題にどのように取り組んだのか。担当者たちが振り返ります。

  • SECTION 1

    “誰にもうつさない、誰からもうつされない”現場を作る

  • SECTION 2

    リモート運用で生じるストレスをいかに減らすか

  • SECTION 3

    目指したのは「身の丈に合う」リモートプロダクション

  • SECTION 4

    これからのプロダクションに必要なのはアイデアと“妄想”

Profile
  • 吉井 勇

    ファシリテーター
    月刊ニューメディア編集部
    ゼネラルエディター

  • 元橋 圭哉

    デジタル開発技術本部
    開発企画部 特別主幹

  • 井田 善博

    メディア技術本部
    番組技術センター
    TD部 担当部長

  • 中澤 義孝

    デジタル開発技術本部
    開発企画部 部長

  • 村上 篤史

    メディア技術本部
    番組技術センター
    映像部 シニア・エンジニア

  • 大橋 玄文

    メディア技術本部
    番組技術センター
    映像部

  • 栗岩 範和

    デジタル開発技術本部
    IT開発・運用センター
    ITシステム開発部
    チーフ・エンジニア

  • 小林 雄途

    デジタル開発技術本部
    映像システムセンター
    システム開発・整備部
    専任エンジニア

  • 髙栁 紘平 (テクラボ担当)

    仙台総支社
    仙台メディア技術事業部
    青森メディア技術事業所

“誰にもうつさない、誰からもうつされない”現場を作る

取り組んだのはシステムの分散とバックアップ

吉井

今、放送現場ではさまざまな感染症対策をしたうえで、番組制作を行っています。そうしたなか、NHKテクノロジーズは、7月に行われた大規模スポーツ中継を無事、成功させました。どんなアプローチで臨んだのでしょうか?

村上

私たちが取り組んだのは、1日5時間、約2週間放送が継続される大規模なスポーツ中継でした。新型コロナウイルスの影響で、「3密を避ける」が命題となる状況で、どうすればみんながストレスなく仕事ができるのか。そして主催者に対しても、自分たちの感染症対策をしっかり説明できなければ、放送できないよねという話からスタートしました。

具体的な方法としては、最初に中継車の制作機能をどこまで分散できるかを考えました。まずはスローオペレーターを中継車外に出す、さらにはスイッチャーも外に出せないかなど、3密になりがちな中継車内を空っぽにできないかを検討しました。私たちが使っているのはIP中継車なので、コントロールはすべて1本の線で分散できます。ただ、技術だけではそういったプランは絵空事で、制作側と意見が一致しないと放送できませんし、中継車も当然、1台で済まなくなりますので、場所の確保なども必要になります。

IPリモート制作室
EVSリモート

井田

私は技術サイドの感染症対策責任者として、2週間にも及ぶ放送をどうすれば安全に継続できるかを制作サイドのチーフプロデューサーと何度も話し合いました。いちばん重視したのは、制作スペースを確保して、中継現場内での濃厚接触状況をなくすこと。持ち込まれるウイルスは仕方ないという認識のもと、持ち込まれても現場内では感染を広げない。誰にもうつさないし、誰からもうつされない現場を作ろうと考えました。各自の消毒は大前提として、例えば、複数の人が同じインカムや機材を触らないなど非接触の徹底です。とくに注意したのは、制作上インカムによるコミュニケーションが必要なスイッチャーやスローオペレーターで、放送開始から約3時間は中継車外の別スペースからオペレーションを行い、スタッフが交代する最後の約2時間は中継車内でオペレーションするなど、人も場所も全部変えて、スタッフの接触リスクを回避しました。さらに万が一、発熱者がでても放送が継続できるように、競技施設内にも部屋を用意してもらって更なるバックアップを設けるなど、感染リスクを何段階にも分けて中継システムを設計しました。

制作機能バックアップ
VEリモート
4K-OB1車内

参考にしたのは海外の事例

吉井

プロダクションを分散させて、万全な対策をとったわけですね。何を参考に制作環境を構築したのでしょうか?

村上

参考にしたのは海外のゴルフやサッカー中継などです。5月末の時点で、すでに再開されていたものもあったので、その取り組みを私たちの仕事に落とし込んでいきました。

井田

例えばゴルフのPGAツアーでは、中継車で作業するチームと、コース上のカメラや集音するチームを分けて、それぞれのクルーがまったく交わらないシステムを作っていました。ほかにもドイツのブンデスリーガ(サッカー)では、担当者が公共交通機関を使わずに現場に向かう対策がとられています。ただ、日本では公共交通機関の使用を禁止するのは難しい。ですから、持ち込まれる感染リスクから制作スタッフを守り、生放送を継続するためにどうするかを逆算で考えた感じですね。

村上

完全とまではいかないまでも、考えられる感染対策はすべてやったというのが、今回の取り組みでした。最悪、感染状況が酷い場合には、周辺のホテルに宿泊して対応する「缶詰作戦」も考えていましたね。幸い、実現しなかったので、ホッとしていますが・・・(笑)。